大切なカレシ








越前リョーマは恋人である跡部景吾のマンションにいた。

週末は大体このマンションで跡部と過ごすことが多かった。

越前は跡部のことが好きで仕方がなかった。

どこが好きかといわれれば、すぐは思いつかないが、

キスもしたいし、自分のすべてをあげたいと思っていた。

でも、跡部は何もしてくれない。

キスだって、いつも頬っぺたかおでこだけだった。

抱きしめても強く抱きしめるだけでエッチすらしてくれない。

無駄に広い寝室で越前は跡部のことを考えながら、跡部の帰りを待つ。

「何で俺がいつも待ってなきゃいけないんだよ」

サイアク。

部活が早く終わって、長く一緒に居られると思って楽しみにしてたのに、

急用で出かけていった。

『すぐ戻るから、部屋で待ってろ』

そんな言葉を残して、跡部は帰り道に越前を置いて行った。

仕方ないとは思うけど…何だかやるせない。

何もすることのない部屋で、越前はただ待っていた。

明日は休みだから、今日は思いっきり甘えよう。

そう思う越前だった。





「越前、待たせたな」

跡部が部屋に戻ってきたのは一時間位経ったあとだった。

跡部は部屋に入るなり、荷物を置くと、すぐさま寝室に向かう。

案の定、越前はベッドの上でぐっすりと寝ていた。

跡部は越前の前髪をさわる。

「悪かったな、越前」

そして、そっと頬にキスをした。

「んん、跡部さん…」

越前が寝言とともに寝返りを打つ。

跡部は起こさないように、布団をかけるとそのまま寝室を出て行った。


跡部が越前を意識するようになったのは真田を倒した関東大会だった。

生意気な一年があの真田を倒すとは思いもよらなかった。

もともと実力は認めていたし、何よりもあの性格が嫌いじゃなかった。

初めて出会ったとき、跡部をサル山の大将と言ったことを今でも覚えている。

くそ生意気なガキ。

はじめは本当にそれだけのだった。

大会ごと強くなっていくあの越前に興味を持った。

そして、あの真田を負かした試合で跡部の中で衝撃を受けたのは事実だった。

少しつづ、大会などで会うたびに跡部の中で越前の存在が大きくなっていった。

それが好きと気づいたとき、跡部は越前を無理矢理デートに誘うことしばしば。

回を重ねるごとに2人の距離は縮んでいき、跡部から告白して、現在に至る。

リビングの椅子に座りながら、そんなことを考えていると、越前がやってきた。

「跡部さん・・・おかえり」

「起こしちまったか?」

申し訳そうに跡部は声を出す。

越前はううん。と首を横に振った。

「何か飯食うか?」

時計を見ると19時ごろだった。

「・・・あんまりお腹空いてないケド・・・跡部さんは?」

「俺も大丈夫だ」

跡部はそういうと、椅子から立ち上がると越前を抱きしめた。

「今日はもうずっと一緒だ、越前」

跡部さんの温もりを越前は感じていた。

大事にされているのが伝わってくる。

でも。

「跡部さん」

越前は跡部の顔を見つめながら、言葉を続けた。

「・・・キスしてほしいんだけど・・・」

跡部はいつもと同じように頬にキスを落とした。

越前は人差し指を跡部の口元に持っていき、

「・・・ここに・・・」

跡部はクスッと笑みを浮かべて、今度はおでこにキスを落とした。

「また、今度な」

そういってしてくれなかった。

越前はキュッと唇をかみ締めた。

「・・・じゃぁ、俺を抱いてくれる?」

まっすぐに見つめる越前の視線を跡部は受け止めることができなかった。

そんな跡部に越前は怒りを覚えた。

「・・・跡部さん、俺たち恋人だよね・・・なんで何もしてくれないの?」

静かに明らかにいつもとは違う越前の低い声。

「越前、俺はお前を大事にしたい・・・」

その言葉に越前はさらに怒りを募らせた。

「大事って何?俺は跡部さんのこと好きだから
キスもしたいし、俺の全てを跡部さんにあげたいって思ってるのに・・・
ただ、大事にされてるだけなら、俺は嫌だ」

越前はそこまでいうと、帰る。といって跡部の部屋を出て行った。

「越前!!!」

跡部はしばらく呆然としていたが、冷静さを取り戻すと、

あのバカッ!!

とつぶやいて、越前のあとを追いかけていった。








勢いで飛び出したのはいいが、荷物も跡部の部屋においてきたままだった。

越前は途方にくれていたが、戻る気にはなれなかった。

「跡部さんのバカ」

歩道をトボトボと歩いている。

足取りは無意識に重くなる。

どうしよう。

だんだんと悲しくなってきて、目じりに涙が溢れていた。

そんなときだった。

背後から声が聞こえた。

振り向くと、そこには忍足が立っていた。

「忍足さん?」

「跡部とけんかでもしたん?」

忍足はそういうと、俺でよければ相談のるけど。と付け加えた。

越前と忍足は近くの公園のベンチに座った。

相談に乗るといわれても、話しにくいことには変わらない。

越前は買ってもらったジュースを無言のまま飲んでいた。

「跡部のやつな、大切な奴ほど奥手になるんや」

忍足はそんなことを言った。

まさか。と越前は思った。

「大切だから、大事にしたいや・・・だから、跡部のやつ、何もしてくれへんやろ?」

突然の忍足の言葉に越前はゴホゴホとむせてしまった。

忍足は分かりやすい越前の反応に笑みをこぼした。

「今頃、跡部のやつ探しとるんやないか?とりあえず、電話しとくで」

RRRR

忍足は携帯を操作し、跡部に電話した。

『今取り込み中だ、後にしろ』

「今、跡部のマンションの近くの公園なんやけど、越前も一緒や」

跡部は忍足の言葉を最後まで聞かず、電話が切れた。

「あの様子じゃ、すぐ来るで・・・」

忍足は楽しそうに笑みをこぼした。

越前は立ち上がり、

「ごちそうさまでした、忍足さん」

その場を去ろうとした。

それを忍足は越前の手を掴み制した。

「ほんま、それでいいんか?跡部の本心を聞いたことないやろ?」

「だって・・・何もしてくれないのが本心じゃないんですか」

越前は声を無意識に張り上げた。

「言ったやろ、跡部は奥手やて・・・」


「忍足、適当なこと言ってんじゃねー」

息を切らした跡部が2人の前に姿を現した。

「跡部さん」

「戻るぞ、越前」

跡部は越前の手を掴んだ。

越前はそれを振り払おうとしたが、ガッシリと跡部に掴まれていた。

忍足は跡部の前に歩み寄ると、跡部に耳打ちした。

「大事なもん、つなぎ止めておかんと・・・たまには素直に口に出してあげな・・・」

では、俺は帰るで。

忍足はその場を去っていた。

「越前、戻るぞ。話はそれからだ」

越前は仕方なく、跡部と一緒にマンションに戻ることになった。



戻った二人は黙ったままだったが、跡部が先に口を開いた。

「越前・・・すまなかった。お前を悲しませた」

跡部は越前を抱きしめた。

「越前、俺はお前を大切にしたい。それは今も変わらない。
・・・俺もお前の全てが欲しい・・・」

その跡部の言葉に越前は嬉しくなった。

「・・・俺のこと大事にしなくていいから・・・跡部さんのすべてをください・・・」

好きな人の体温を感じたいから・・・。

「越前」

跡部はまっすぐに見つめてくる越前に軽く笑みを浮かべると、

初めて唇にキスをした。

お互いの柔らかい唇の感触とほのかな温かさが気持ちよかった。

跡部は越前を寝室へいざない、ベッドに静かに押し倒した。

「跡部さん・・・好き」

「越前、俺もだ」

二度目のキスは濃厚なものへと変わり、二人の息が荒くなる。

跡部は越前の服を脱がせながら、首筋から越前の身体に唇を落とす。

彼の身体がほのかに赤みを帯びてくると、跡部はズボンを一気に下ろした。

跡部の手が越前の中心に伸びてくると、彼はピクンと身体を震わせた。

跡部に触られているだけで越前の身体は高揚し、欲望が大きくなっていく。

「跡・・・部さん・・・ダメ・・・」

跡部はそのまま彼の象徴を刺激させながら、さらに口で愛撫する。

越前は身体を大きく震わせながら、跡部の顔に欲を解き放った。

「あ、ごめんなさい・・・」

「気にするな。お前のイッた顔も可愛かったぜ」

跡部は笑みを静かにこぼした。

越前はその言葉にカァ〜と顔が赤くなった。

跡部は立ち上がり、サイドボードからローションを取り出した。

越前はその跡部の行動を息を整えながら眺めていた。

「越前、少しヒンヤリするが・・・」

そういうとローションを適当に手に取り、越前の双丘の間の秘所に塗りこんだ。

火照った身体にヒンヤリとする液体に越前は思わず声を漏らした。

「越前、少し痛いかもしれないが・・・」

「ん、大丈夫・・・だから・・・」

跡部はズボンを脱ぐと、すでに大きくなった跡部のモノが反り立つ。

「越前・・・力抜けよ」

跡部は自身のモノを越前の秘所に押し当てると力任せに押し込む。

ローションを塗っているとはいえ、慣れていないそこはキツく狭い。

「あ、跡・・・部・・・さん・・・

越前は跡部の名を呼ぶことで痛みに耐えていた。

「越前・・・」

跡部も応えるように愛しい名を呼び、一気に押し沈めた。

互いの顔を見つめ、一息つく。

「越前・・・動くぞ」

越前は涙を浮かべながら、うなずいた。

跡部の腰がリズムを刻むように動く。

それとともに越前の口から艶のある声が漏れた。

越前は嬉しかった。

やっと、跡部さんと一つになれたことに。

やっと跡部さんに自分のすべてをあげられたことに。

「あ、跡・・・べ・・・さん・・・好きにしていい・・・から・・・」

もっと、跡部さんを感じさせて。

嬉しくて、越前は無意識に声を張り上げていた。

跡部はその言葉に嬉しくて、笑みを浮かべながら、

「越前・・・好きだぜ・・・何よりも・・・」

跡部はそう耳元でささやくと口付けをした。

そして、2人は同時に欲望を解き放った。





力を出し切ったように2人は息を切らしていた。

跡部は自分のモノを抜こうとしたとき、越前が制した。

「もう少しこうして抱き合っていたいんだけど・・・」

跡部はうなずくと、越前にキスをした。

「跡部さん、もう一つお願いがあるんだけど・・・」

「何だ?」

互いの温もりが心地いい。

「2人でいるときだけでいいから名前で呼んでくれない?」

「あぁ、俺も景吾でいい」

越前は笑みをこぼして、唇を重ねた。

「ありがとう、景吾さん」

「今日は寝かせないぜ、リョーマ」

2人はそのまま、抱き合った。







その頃、忍足は自分の部屋で溜息を吐いていた。

「まったく、何で俺が助け舟ださなあかんのや・・・
まぁ、今度跡部におごってもらへんとな・・・」

独り身の忍足には少し羨ましかったが、

越前の泣いていた顔が見れてよしとしよう。と思った。

親友の恋人だが、可愛いと思ってしまう。

跡部には口が裂けてもいえないことである。


何だかんだで、仲直りした跡部と越前であった。




後日、忍足は跡部から映画のペアチケットと遊園地のペアチケットをもらった。

誰と行くかは不明である・・・。



おわり